「幸福は、たいていの場合、不幸を介して、その姿を浮かび上がらせてくる失われた桃源郷である。幸福は、不幸という現実のなかで、初めて見つめられる幻影、そして追い求められる夢、切なく慕われる理想である。」という言葉を見かけて、わかる気がする、と思った。
幸福は、その渦中にいるあいだ、そうでないときに憧れているほどには、実感することが難しい。でもそうだとしたら、人間ってなんて面倒くさくて業の深い生き物なんだろう。
たまたま私の職場近くにいた夫と食事をした夜、「タクシーで少しドライブして帰ろう」と夫が言いだして、タクシーに乗った。レインボーブリッジを渡って豊洲で降り、晴海大橋を歩いて渡った。
水辺の向こう側の、ちかちかとまばゆく発光しているビル群のあいだから、大好きな東京タワーの先端が少しだけ見えた。こうして離れてみると、向こう側にあるのはおもちゃみたいな街で、でもとてもきれいだった。
最近、一日の大半を仕事に費やしていてうまく休息をとれないストレスや、できないことに対する自己否定で苦しい毎日だけど、こういう、川底にきらきらと光る砂金みたいな幸せはたしかにあって、その一つ一つをきちんと掬いあげることを忘れたくない、と思った夜だった。
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