Title:ダブルベッド(中)


フロアライトの橙色が淡く広がる寝室は、深夜のためか外からの物音もなく、ひそやかに静まり返っていた。

その静かな室内に、先ほどから恭一の掌にたっぷりと垂らされた潤滑剤が、彼の指の動きに合わせて淫靡な水音を響かせている。

「もう、いいから……はやく」

ベッドの上で、恭一の中指にアヌスをほぐされ続けている今ヶ瀬が、切羽詰まった声でそう懇願する。

「だめだ」

二度目のセックスで余裕があるのか、恭一は今ヶ瀬を徹底的に焦らして愉しむつもりのようだった。

今ヶ瀬が何度、ペニスを挿入してほしいと——涙ぐんで懇願したり、反対に恨めしげに睨んだりしても——まったく聞き入れてくれない。

前立腺の周囲を指で焦らすように刺激しては、もどかしさに悶える今ヶ瀬の様子を、ただ静かな目で観察している。

しかし言葉とは裏腹に、内壁に爪があたらないよう、慎重に指の腹を使う手つきは優しげだった。

かつて、男の抱き方を彼に教えたのは今ヶ瀬自身だったが、その飲みこみの早さと勘の良さがいかにも恭一らしい、と今ヶ瀬は思う。

——恭一はきっと、女にも丁寧に前戯していたんだろう。

彼の愛撫に敏感に身体を反応させながら、ふとそんな考えが頭をよぎる。今ヶ瀬にとっては、長年のあいだ馴染みのある嫉妬の炎が、一瞬、胸の奥を昏く灼いた。

一方でセックスの際、恭一がこうして嗜虐的な一面を垣間見せるのは、唯一、自分に対してだけだということも知っていた。

恭一の意のままに翻弄される快感と、彼の隠された顔を覗き見ているような背徳感が、同時にぞくぞくと今ヶ瀬の背筋を這い上がる。

そのとき、今ヶ瀬の熱く張りつめたペニスに恭一の手が伸びた。ずっと待ち望んでいた刺激に、つい腰がびくりと跳ねる。

恭一はその硬さを確かめるように指でそっと撫であげると、手のひらで包みこみ、上下に擦って愛撫しはじめた。

いちばん敏感な場所を奥と同時に責められて、気が狂いそうに気持ちがいい。堪えきれずに小さく喘ぎながら、今ヶ瀬は腰を揺すって快感を貪った。

しかし、恭一はオーガズムの気配を感じると、ふっと手の力を弱めてしまう。それを何度か繰り返され、今ヶ瀬はおもわず真っ赤な顔で恭一を睨みつけた。

しかしその抗議の視線にも、恭一は眉一つ動かす様子がない。むしろ普段は見せることのない、意地悪な目をして笑う。


恭一にさんざん焦らされているせいで、全身が性感帯になったように熱い。今ヶ瀬は身体の力を抜き、ぐったりとシーツに体重を預けた。

「口開けろ」
「……ヤダ」

恭一の言葉に、そう答えて顔をそむける。すると頬をぐいと掴まれ、無理やり口を開かされた。抵抗する力もないまま、強引に指を差し入れられ、口の中を蹂躙される。

今ヶ瀬はその指を咥えなおすと、フェラチオと同じ要領で舌を使い、必死に奉仕してみせた。恭一の視線を感じながら夢中でそれを続けていると、唐突に指を引き抜かれ、代わりに荒々しく唇を奪われる。

恭一の舌の動きに合わせて、身体が勝手にびくびくと反応する。悔しさよりも、愛する男に征服されている悦びで、今ヶ瀬は縋りつくように恭一の首にしがみついた。

唇を離しては角度をかえて、離れがたく口づけを繰り返す。しばらくすると、恭一の唇は今ヶ瀬の耳の裏側からうなじの方へ、ゆっくりと降りていった。

首筋の皮膚を何度も柔らかく吸いながら、小さなほくろを見つけるたびに、その位置を今ヶ瀬に知らせるように舌でなぞる。

今ヶ瀬はそうした愛撫を丹念にほどこす恭一の、セックスに乱れた黒髪のつむじを、どこか現実離れした感慨をもって眺めた。

そのとき、今ヶ瀬の胸の先を恭一がそっと口に含んだ。そのまま舌を使って優しく、しかし執拗に刺激される。

今ヶ瀬はふいに、学生時代の記憶——

煙草を弄ぶように吸う恭一の姿を見つめながら、あの指や唇で愛玩されたらどんなにいいだろう、とひそかに想像していたこと——を唐突に思い出した。

その瞬間、敏感なその場所に甘く歯を立てられて、おもわず大きな声が漏れる。すると、普段は声を抑えることの多い今ヶ瀬のその反応に、恭一が驚いた目をして顔を上げた。

過剰に反応してしまった羞恥で、たちまち耳許が熱くなる。そんな自分の表情を、恭一がまじまじと眺めているのが分かった。

「気持ちよかった?」

そして淫靡な目の色で、そう言って微笑む。今ヶ瀬は黙ったまま彼の首に手をまわすと、肯定の返事のかわりに恭一の唇を柔らかく吸った。

その口づけに応えながら、恭一の指は抑制された動きで今ヶ瀬の身体を愛撫し続け、その正確な手つきに一層感じて昂ってしまう。


指と舌で溶けるほど今ヶ瀬を焦らしつくしたすえに、恭一はようやく彼の手を引いた。ベッドの上に腰掛けると、今ヶ瀬に「来い」と眼で命令する。

今ヶ瀬はがくがくと力の入らない身体で起き上がると、恭一と向かいあう姿勢で、なんとか彼の膝の上にまたがった。

そして恭一の手に腰を支えられながら、彼のペニスを自身のアヌスへと導く。

ゆっくりと腰を落とすほどに侵入してくる陰茎の熱く硬い感触と、恭一に自分の身体を求められている歓喜で、頭の中が沸騰しそうなほど熱い。

「はぁ……っ」

今ヶ瀬の鎖骨あたりに顔をうずめている恭一の、熱のこもった吐息が肌にかかる。恭一はそのまま、何度も音を立てて目の前の身体に口づけた。

しかし彼は、たとえどんなに激しいセックスをするときも、今ヶ瀬の肌にキスマークを残すような真似は絶対にしなかった。

今ヶ瀬の心も身体もすべて自分のものだと——そんなしるしをつけるまでもなく—— 恭一は知っていたし、今ヶ瀬自身にもそのことは、嫌というほどよく分かっていた。

そもそも、と今ヶ瀬は思う。今ヶ瀬は十年以上も前からすでに、ずっと恭一のものだった。出会った瞬間から、避けようもなく。

だから二人にとって、セックスの際に全身に落とす口づけは、ただ単純に、自分の想いを相手に伝える手段だった。

『心から愛してる』

その言葉の代わりに、はてしなく繰り返される愛撫。

今ヶ瀬のアヌスが恭一の陰茎をすべてのみこむと、二人は互いの身体に手をまわし、しっかりと抱き合った。

そして無言のまま顔を寄せあい、この夜の間でいちばん長く、深いキスをする。

歯列の一つ一つをなぞるように、恭一の舌が今ヶ瀬の口内を動く。その彼の舌を一心に吸いながら、眩暈がするほどの一体感に、頭の芯がゆっくりと痺れていく。

舌を絡めるほどに甘い毒が全身にまわり、目の前の男が欲しいということ以外、なにも考えられない。

幾度も角度をかえて互いの舌を味わいつくすと、恭一にしっかりと腰を支えられた今ヶ瀬が、少しずつその身体を動かしはじめた。

身体の律動に合わせて、ベッドがわずかな音を立ててきしむ。その規則的な音と二人の快感のため息だけが、静かな部屋に熱をもって満ちていった。

今ヶ瀬は、奥の悦いところに恭一のペニスがあたるように腰を動かしながら、彼の少ししかめられている眉間と、射精を堪えているような切なげな表情を見下ろした。

その表情にたまらない気持ちになり、恭一の顎に手をかけ、強引に唇を奪う。すると、恭一が今ヶ瀬の腰をぐいと抱き寄せ、下から強く突き上げてきた。

同時に、ペニスをとても気持ちのよいやり方で——どの部分にどう触れると今ヶ瀬が感じるのか、恭一は熟知していた——指で扱かれ、今ヶ瀬の唇から甘い声が漏れる。

「奥に、出してください……」

恭一に腰を突き上げられながら、彼にそう懇願する。そのことに何の意味もないのだとしても、どうしてもそうして欲しかった。

すると突然、恭一がふわりと今ヶ瀬の身体を持ち上げ、ベッドの上に乱暴に放った。

唐突にペニスを抜かれた切なさを感じる間もなく、後背位でふたたび深く挿入される。もう上半身を腕で支えることもできず、今ヶ瀬はシーツに顔を押しつけたまま声をあげた。

なんとか体勢を立て直して振り返ると、背後から一心に突いてくる恭一の、獣じみた鋭い眼差しが視界をかすめた。

その彼の瞳に、確かに激しく掻き立てられた欲望の色を認め、今ヶ瀬の目の奥に熱い痛みが走った。

何十回、何百回と恭一と肌を重ねても、元々は異性愛者の彼が、男である自分の身体に欲情していることに、心の底から安堵する。

——泣いたりしたら引かれるに決まってる。

昔はそう思って我慢していたものの、最近はもう自然に任せることにしていた。たちまち、溢れた涙が幾筋も目尻を伝う。

嗚咽まじりの喘ぎ声とともに、みるみるうちにシーツに涙の染みが広がっていった。

すると、今ヶ瀬が泣いていることに気づいた恭一が、彼の頭をぐいと持ち上げ、その顔を覗きこんだ。

そして涙にまみれた今ヶ瀬の表情を一瞥したとたん、目の色を一層鋭くさせる。

恭一はおもむろにペニスを抜くと、今ヶ瀬の脚を眼前に大きく開かせた。その体勢に恥辱を感じる間もなく、ふたたび一気に貫かれる。


「もう、だめ……いやだ」

今ヶ瀬はうわ言のようにそう言うと、真っ赤に染まった顔をゆるゆると振りはじめた。

快感が最高潮に達すると、今ヶ瀬にはしばしばそう口走る癖があった。

しかしそういう時、恭一は絶対にやめない。むしろその言葉が、今ヶ瀬が絶頂に向かって強く感じている合図だと知っている恭一は、かえって煽られたように腰を動かす。

恭一に激しく突かれるたびに、快感が加速度をつけて跳ね上がり、視界が真っ白にハレーションを起こすほど気持ちがいい。

そしてついに、身体の奥から燃えあがるような強烈な絶頂感が、今ヶ瀬の全身を一瞬で灼きつくした。首をのけ反らせ、一際大きな声をあげて達する。

今ヶ瀬のペニスを包みこむように持つ恭一の掌が、彼の白濁したそれをしっかりと受け止めた。

そして恭一も数度強く腰を打ちつけると、びくびくと身体を痙攣させながら、今ヶ瀬の中で追うように果てた。

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